平成28年6月20日

 新しい専門医制度を巡って、解決すべき様々な課題が明らかになり、国民的議論に発展しつつあります。超高齢社会の到来を目前にして、国民の生命を預かる医師、専門医養成の在り方が注目されるのはもっともなことです。

 多くの医療現場を支える内科の立場として、そこから寄せられる声に真摯に耳を傾け、より幅広な議論、検討の必要性を痛感し、行政、日本専門医機構、多くの医療団体、学会をはじめとする関係者による協議が必要であるとの見解を、メディア等を通じて述べてまいりました。その後、日本医師会および四病院団体協議会の要望書をはじめ、さまざまな団体や個人の声、そして厚生労働大臣談話および定例記者会見などからも早急に集中的な精査、検討の場を設定することが提言されております。
 日本内科学会としては、このような協議の場が速やかに設定され、各学会と共に積極的に参加し、皆様からの建設的なご意見が集約されることにより、より良い仕組みとなることを期待しております。その上でご理解をいただけるのであれば、平成29年度からの新たな専門医の仕組みを開始したいと考えております。
 しかしながら、平成29年度の研修を準備する各施設と指導医、そして研修医のおかれた状況を鑑みるに、時間はほとんど残されておらず、検討の時期や方向性が定まらないままにすることはできません。この協議の場の設定により、良い仕組みが構築されることが期待される一方、結論に時間を要することも考えられます。そのため新しい専門医制度が開始できるという見通しが得られない場合、本年7月末を目処に、来年度に関しては日本内科学会の現制度を継続する判断をしたいと考えます。

【新しい内科専門医制度について】

 そもそも、今回の新しい内科専門医制度は、我が国が「2025年問題」として取り上げられる超高齢社会を迎えることから、複数の疾患を有する場合の多い高齢者にも質の高い医療を提供できるジェネラルな素養を持つ内科医の育成という、社会からのますます大きくなる要請に十分応えるべきものであると考えられます。この認識は、現在、内科のサブスペシャルティ専門医として従事されている方々にも共有されます。
 日本内科学会ではこの観点に立脚し、日本専門医機構との協議のもと、内科のサブスペシャルティ学会も交えて研修カリキュラムを見直し、幅広な症例経験を求めるプログラムを設けることとしました。従来、初期研修を含めて3年で取得可能であった認定内科医を、初期研修と専攻研修を合わせて5年の研修を必要とする内科専門医として見なおしたのは、上記のような社会の要請に応えるためであります。しかし、内科の研修は実に幅が広く、研修医の志向や人生設計も多様です。新しい取り組みにおいては、研修の修了要件が満たされることを前提に、現行制度からのスムーズな移行を妨げることがないように、柔軟かつ弾力的な措置や運用を考慮します。内科はまた、多くのサブスペシャルティ専門医の基本領域という役割を担っております。よって、サブスペシャルティ専門医を望む研修医や社会の要請に積極的に応える必要もあります。この内科専門医のあり方については、引き続き内科のサブスペシャルティ学会と協議してまいります。

 これまでも、そしてこれからも「質の担保」は、専門医を養成する上で、最も重要な事項です。このことにつきましては先述のとおりです。一方、「地域医療」に於ける医師の偏在と不足の解消は、現実のこととして、真摯に向き合わなければなりません。「質の高い医師の養成」と「地域医療の充実」、ともすると矛盾しがちな課題の解決に向け、新しい内科専門医制度の設計の中では、地域医療の充実を重視し、次のような取り組みをしてまいりました。

【地域医療の充実に向けて】

 いわゆる「地域医療」の充実、この要請に応えるため、新しい取り組みでは施設群による研修体制を構築しました。これまでの大病院単独型研修を見直し、中小病院とも一体的に取り組む体制です。このことにより新しい制度へ参加する施設数は全国で従来の1194施設から2875施設と2.4倍に増加しました。増加した施設の内訳としては、中小病院が大半を占め、新たに200床未満の施設が1568施設、参加することとなります。このことにより、これまで指導医になることができなかった中小病院所属の内科医が、指導医として新たに参加することとなり、指導医の大病院集中や引き剝がしがないように配慮しております。多くの中小病院の参加は、自治医大、防衛医大、産業医大出身者、ならびに各大学医学部の地域枠の研修にも配慮することを念頭に入れております。
 施設は増えてきている状況にありますが、更に細やかな配慮が必要となります。それは、施設群における基幹施設と連携施設の関係性です。基幹施設はプログラムの管理を担っておりますが、研修の主な場所が連携施設であることも多々あります。どのような場合においても、基幹施設と連携施設間の円滑な異動や各施設での確実な身分保障などが担保されている必要があります。これらの点については、各施設の声を聞きながら、取り組む必要があると考えます。
 地域の均てん化に目を向けると、参加施設の二次医療圏の達成率は、従来の294/344医療圏から全344医療圏を網羅できる状況となりました。全国で研修が実施できる体制が整うことになりますが、その実情について経時的に見ていく必要があると考えます。
 忘れてならないのは、研修医が「地域」に向き合う姿勢を持つことです。都市部であれ、地方であれ、それぞれに「地域」は存在します。新しい制度では、病診・病病連携の依頼側と応需側の双方の医療を経験し、地域医療でそれぞれの役割を果すことができる専門医を養成したいと考えております。

【研修医の方へ】

 各地域において安心できる医療を提供するためには、安心できる研修体制づくりが欠かせません。研修体制を担う多くの関係者が相互の理解のもと、信頼関係が構築されなければ、この制度は開始することはできないと思います。そして何よりも忘れてならないのは、ここに参加する主役である研修医への配慮です。
 内科は医学・医療の要であり、研修内容には相応の質が求められます。内科研修は階段状に技術を積み上げていくスタイルではなく、幅広な領域研修を行き来しつつ、ジェネラルとサブスペシャルティとが一体・調和するような性格を持ちあわせています。また、研修医の志向や人生設計も多様です。よって、内科研修では修了要件を満たすことを前提に、研修医が安心して研修に臨むことができる柔軟かつ弾力的な措置や運用が必要であると考えます。具体的には次のようなことが挙げられます。

1)内科系サブスペシャルティ研修に関する弾力的な対応

 内科ではジェネラルな研修が重視される一方、サブスペシャルティに比重をおいた研修を求める若手医師も少なくありません。プログラムオリエンテッドの観点から考慮しますと、所定の修了要件を満たしているのであれば、サブスペシャルティ研修の並行研修に関しては、弾力的な対応を行う必要があります。そして社会からもサブスペシャルティ専門医を求める声が大きいことにも耳を傾ける必要があります。

2)休職期間の取扱いについて

 少子高齢化を迎えている現在、出産、育児、介護などは国民全体の課題であり、研修医にとっても避けられない問題です。医師としてのキャリア形成上、避けられないライフイベントに対する配慮として、研修期間中(3年間)における、最大6か月間の休職期間を研修期間に繰り込む措置を設けています。

3)研修実績の登録と評価

 新しい取り組みでは、各人の研修実績を内科学会が提供するシステムに逐次登録することにより、研修の中断、再開、変更(移動)も容易にできる仕組みを構築しました。このシステム上では、研修状況を把握し、それを指導医が評価することになりますが、指導医の指導状況も把握され、評価されます。全国的なプログラムの進捗状況が把握されることにより、制度の見直しやサイトビジットにも活用されることとなります。このシステム利用にあたっては、研修医は勿論のこと指導医の負担の軽減を進めます。

 新しい制度の取り組みに関する目下の懸念点は、新しい制度がいつ始まるのか、その研修実態はきちんとした制度であるのかどうか、ということにあると思います。
 新しい専門医養成の取り組みにあたっては、その理念を尊重し、検証も含めて開始するという観点から、「試行的」という表現が用いられることもありました。しかしこの表現は、研修医の立場からは、決して安心感を与えていないのではないかと考えさせられました。今後、本年6月末に選出される日本専門医機構の執行部、地域医療を担う医療関係者および各学会と十分協議した上で、本年7月末を目処に新しい専門医制度が問題なく開始できることが確認された場合には、日本内科学会は「試行的」ではなく、正式な専門医制度として開始されることを強く望みます。

 これまで、新しい内科専門医養成の取り組みには、多くの方のご理解とご協力をいただきました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます。そして今後は、更に多くの方のご理解とご協力が必要になってまいりますが、日本内科学会は、より良い専門医制度の構築を通じて我が国の将来の医療を担い、患者、国民のニーズに応えることのできる内科医の養成に積極的に貢献する所存です。

一般社団法人 日本内科学会
理事長 門脇 孝


PDF文書(24.8KB)

※内容は上記文書と同じものとなります。