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解説:サバイバルカード

解説:サバイバルカード
-災害時に自分と家族,地域,被災者を守るために-

奥村 徹

はじめに

今回の災害医療シリーズとして,最初にご呈示させて頂くのが,サバイバルカードになる.サバイバルカードとは,まさに,字のごとく.災害時にうまく生き抜くための備忘録である.職業人としての医療者は,まずは,被災者,患者のことを第一に考えるべきであることは当然であるが,医療者は職業人である前に,ひとりの人間なのである.職業人としてその能力を発揮するためには,まず自分とその家族と地域社会を守ることが前提となる.

1.4つの大原則(カード2)

最初のカード2では,災害時に自分と家族,地域,被災者を守るために,

  1. 「火災を出さない」
  2. 「被害を拡大させない」
  3. 「自らの命,家族の命は自ら,家族が守る」
  4. 「自らの地域の安善のために協力し合う」

の4つの大原則を掲げた.以下,事前に準備すべき項目は青でタイトルを記載し,事後対応に関しては,赤色でタイトルを記載した.

2.自分自身の情報(カード3,4)

続いて,カード3とカード4では,自分自身の情報(私の情報,私の医療情報)を記載するようにした.このような記載は,災害時だけでなく,事故や疾病で意識を失った際にも大いに役立つものと思われる.

3.家族の情報(カード5)

次いで,カード5に家族避難場所・連絡先を書くようにした.言うまでもなく,日頃から家族で話し合い,自宅から避難しなければならない時の避難先や連絡先を決めておくことは大切なことである.

4.自分の勤務している医療機関についての情報(カード6)

以降,カード6は自分の勤務している医療機関についての情報である.自分の病院が,災害拠点病院なのか,救命救急センターかどうかをしっかり認識しておくためにも重要な情報となる.併せて,近隣の災害拠点病院を把握しておくことも重要である.

5.日頃からの準備(カード7,カード8)

続いて,カード7では,より実際的な,日頃からの準備について記載した.なかなか,機会がないと,このような準備に取り組まないものである.今回を機会に積極的に準備に取り組んで頂きたい.日頃からの行動では,最低でも3日間分,できれば2週間分の飲水,食料,電池を備蓄すること.地域の一時避難場所・広域避難場所を把握し,伝言ダイヤルの操作方法を財布に入れておく.医療機関では,携帯メール等を利用した安否・参集までの時間見込み等を収集できる簡単なシステムを作る.寝所の回りには家具を置かず,靴を置いておく.避難用簡易呼吸防護具の備蓄を考慮とした.また,家庭内で備蓄すべきもの,非常持ち出し品のリストをカード8に提示した.

昨今の新型インフルエンザに際しては,行政から繰り返し,飲水,食料品の備蓄が呼びかけられているが,実際に備蓄している人は少ない.地域の一時避難場所・広域避難場所を把握することなどは,今すぐにでもできる.医療機関での携帯メール等を利用した安否・参集までの時間見込み等を収集できる簡易なシステムとは,医療機関から携帯メール登録者に一斉にメールを発信するものである.すなわち,医療機関から,安否と,病院まで参集するのにどれほどの時間がかかるかどうかの問いを送る.

 実際には,

    「災害が起こりました.

  • 安否を無事なら1
  • 無事でなければ2
  • 病院に30分以内に参集できる者はA
  • 1時間以内に参集できる者はB
  • 2時間以内に参集できる者はC
  • 当分参集できない者はD

    でこのメールに返事して下さい」

などとする.

寝所の回りには家具を置かず,靴を置いておく.というのは,阪神・淡路大震災の被災者の多くが教訓として語っているものである.言うまでもなく寝所に家具が倒れて負傷された方は多く,屋内はガラスが飛散し,素足では避難できないからである.避難用簡易呼吸防護具の備蓄を考慮としたが,火災の際に亡くなられる方の多くは,火に撒かれて亡くなったのではなく,一酸化炭素,青酸ガスなどの有毒ガスで死亡する.現在では,火災避難用,NBCテロ対策用,両者に対応するものなど,多くの避難用簡易呼吸防護具が数万円で販売されている.わが国では,自助,互助が軽視され,公助が重視されがちであり,防護具の個人需要が限られているが,この機会に,職場や家庭への導入を考慮されたい.

6.災害時伝言ダイヤルやiモード災害伝言板の使い方
(カード9,カード10,カード11)

また,災害時伝言ダイヤルやiモード災害伝言板のことを知っていても,実際の使い方を知っている者は少ないであろう.参考のためにカード9,カード10,カード11に記載した.

7.災害が発生した場合の行動指針(カード12,カード13)

続いて,災害が発生した場合のまず行うべき行動指針をカード12に記載した.

  1. 地靂発生直後は,慌てずにまず身の安全を図り,火気使用時には火を消し,電気コンセントを抜き,出口を確保する.
  2. 火災が発生した場合は,消火器等で初期消火を行い,119番通報する.
  3. 職場に携帯メール等を利用して安否・参集までの時間見込み,余裕があれば周囲の被災状況 をMETHANE(メタン)にそって簡潔に報告する.
  4. 自分と家族の安全を確保したら,余裕ある限り,周辺の火災に対する消火活動や,倒壊建物からの救出等,地域で協力して災害の拡大防止及び二次災害防止活動にあたる.

とした.ここでのMETHANE(メタン)とは,英国の災害医療対応の国際コースMIMMS(Major Incident Medical Management and Support:ミムズ1))で提唱され,災害医療では普遍的な報告内容の形式である.順番に報告することによって,より正確にして必要充分な報告ができる.これもカード13に記載した.

8.災害発生時にかかり易い電話の順番(カード14)

災害時には電話その他の通信機器が輻湊して使いにくくなる.そのため,災害発生時にかかり易い電話の順番をカード14に記載した.ご活用頂きたい.

9.国民保護あれこれ(カード15)

最後に,カード15に,「国民保護あれこれ」と題して最後の1枚とした.武力攻撃事態やテロに際して国民を守る法体系が国民保護法である.未だに国民の問には十分に浸透しているとはいえず残念なところであるが.国民保護ポータルサイト http://www.kokuminhogo.go.jp には,一度目を通して頂きたい.特に,サイレン音は一度は聴いて耳に馴染ましておいて頂きたい.同サイトより,緊急時に役立つ情報を記載した.

10.メモ(カード16)

カード16は,メモ欄とした.各自,必要だと思われること,書き留めておいたら便利な事項を記載されたい.

おわりに

以上,まさに,災害時に自分と家族,地域,被災者を守るための必要最小限のサバイバル情報をもって,サバイバルカードとした.早速,折線にそって折って,定期券入れ,財布などに入れておいて頂きたい.

Key words

災害,MIMMS(Major Incident Medical Management and Support:ミムズ),避難用簡易呼吸防護具
〔日内会誌 99:1376~1378,2010〕

文献
  1. Advanced Life Support Group:MIMMS 大事故災害への医療対応 現場活動と医療支援-イギリス発 世界標準.小粟顕二,他訳,永井書店,2005
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