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災害3日目以降:病院編

災害3日目以降:病院編

山口 征吾 (新潟県立十日町病院内科)

はじめに

ライフラインは電気,LPガス,水道,都市ガスの順1)に復旧するが,市民の生活や病院機能が回復するには,しばらくの時間を要することになる.3日目以降は外傷患者の減少はみられるが,薬剤の中断や過酷な避難所生活に起因する慢性疾患の悪化した患者が増えてくる.またこの時期は定期外来の再開や既存の入院患者の扱いなど,流動的な対応を迫られる.これらの多くは内科医によって対応されなければならない.

1.被災地病院外来編(カード1)

この時期に外来で念頭に置くべき事項を項目に分けて述べる.

  1. スタッフミーティング・情報管理
    情報収集・周知方法としては,文書配布や掲示に加え,1日2回(朝夕)のスタッフミーティングが有用である.人対人コミュニケーションは,情報共有の確実性が増すと同時に,被災者であるスタッフの疲労度を知ることができる.
  2. 外来の再開
    患者が殺到する救急外来や救命センターでの受け入れは制限できず,災害時の病院機能の大半はそこに傾注される.従って,定期外来の再開時期決定や受け入れ規模は悩ましい問題である.結局,病院機能とニーズのバランスの中で,臨機応変の判断をすることになる.
  3. 検査
    検査機器の破損などで検査不可能なものがあったり,時間がかかったりする.必要に応じて,制限や優先順位づけをする.
  4. 薬剤
    棚の崩壊や水ぬれなどで薬剤が使用できなくなるため,処方箋を発行しても入手できない場合もある.処方可能な薬剤の量と種類を確認する.1回の処方日数も制限する.またくすりの種類も制限した方が管理しやすい.「外来は再開しましたが,数日間の処方に限定させてください.残薬のある方や病状の安定している方は,後日の受診をお願いすることがあります.」などの掲示や広報が有効である.
  5. 診察・処置スペース
    病院内も被災の影響があれば,診療・処置スペースの確保は難しくなる.建物の被災状況を確認して,患者待合スペースや患者・スタッフ動線の確保など,診療についての環境整備が重要である.
  6. 医療材料確保
    縫合や傷処置の医療材料などが大量に消費され,中央材料室機能の低下や物流低下があれば,これらの物品は不足する.滅菌装置の破損では滅菌物品を再生使用できなくなる.状況によっては,診療・処置内容の制限や転搬送を余儀なくされることもある.
  7. 患者の動線
    廊下を診療スペースにあてていたり,廊下に段差ができていたり,頭上に落下しそうなものがあったりする.通行禁止や迂回,危険注意などの案内をする.
  8. 患者の紹介・転搬送
    多数の症例を他院に紹介する必要が生じた場合,個々の医師間のやりとりではなく,地域連携室が周辺医療機関と情報交換をして,これを一元管理すると効率がよい.被災直後においては,情報の集中する院内災害対策本部がこれを担う.
  9. 外部からの医療支援
    外部から医療救護班が来た場合,支援してもらう内容や時間帯,場所などを検討する.救護班の適切な補助により,自院スタッフの疲労をやわらげることができる.

2.被災地病院入院編(カード2)

被災状況によっては病院の復旧予想がすぐには立てられないこともある.病院機能の低下が著しい場合には,多くの入院患者を転院または退院させる必要がでてくる.

  1. 転院・退院
    転院先病院の選定には先述の地域連携室の働きが重要である.また実際の転院には救急車が多用されるが,長距離・悪路・渋滞など移動に時間がかかる場合にはヘリコプターでの搬送も考慮してもよい.退院が可能であっても,避難所に帰るしかないというケースも多く,介護施設への定員超過収容も試みられている.
  2. 不十分な医療環境
    稼働ベッド数は大きく減少することから入院制限をしたり,優先順位をつけたりする必要が生じる.医療資器材,スタッフは不足しがちなので,通常の医療レベルは維持できないことを認識すべきである.
  3. 職員の再配置
    職員は急性期には不足しがちであるが,病棟閉鎖などがあると職員が余剰になることもある.この場合,職員の院内再配置や他施設への支援も検討すべきである.
  4. マスコミ対応
    マスコミの取材は情報を全国に発信するよい機会であるが,業務に支障をきたす取材や,被災者に配慮しない取材もみられる.記者会見の時間を設け,それ以外は断るなどの対策が必要である.

3.避難所巡回編(カード3)

災害発生直後から避難所へ被災者は駆け込んでくる.学校や公共施設など指定の避難所の他,行政が把握していない自然発生的な避難所(ビニールハウス,車庫など)を合わせるとおびただしい数になることがある.

  1. 巡回診療情報
    医療対策本部で避難所巡回の割り当てが作られるのでそこで登録し,情報収集をする.また朝夕に開かれるミーティングには参加する.
    日中,元気な被災者は後片付けなどに出かけていて,避難所には高齢者が残っている.基礎疾患を抱えている人も多く,重症化することもあり注意が必要である.リスクの高い人はリストアップしておくとよい.
  2. 避難所の健康管理

    常用薬がつぶれた家の中にあって取り出せない.紛失してしまったということもあり代替薬の支給も考慮する.また不眠や便秘,いつもより血圧が高いなどの訴えが多く聞かれる.

    避難所は時に過密状態になるので感染性胃腸炎やインフルエンザなどの感染症対策2・3)も必要である.

    また車中泊や過密状態の避難所では深部静脈血栓症の発生も危惧される.汚い遠いトイレに行くのが嫌で水分摂取を控えている人が多い.水分摂取の啓蒙が必要である.足を伸ばして寝られる環境も大切である4)

    食事は不自由で,バナナしか食べていない,乾パンしか口にしていないということがある.

    着替えもできないなどプライバシー確保ができずにストレスがたまってくることが多い.避難所の一角に更衣室を作ることや,段ボールで間仕切りを作ることで解消される場合もある.認知症老人や乳児を抱えている家族は避難所での生活は負担が大きい.暑さ寒さも厳しいことがある.医師だけでは対応できないので,対策本部や行政とも協力する.

    またこのような環境下では呼吸器疾患が多く,循環器疾患,消化器疾患と続く5).特殊なものとしてはタコツボ型心筋症の増加などがみられる6)

4.非被災地病院編(カード4)

被災地から近くて,被害を受けていない病院は被災地病院からの患者受け入れを要請されることがある.このためこれに該当する病院はベッドを早期退院や予定入院の延期などにより確保する必要がある.また自院で受け入れ可能な患者数を経時的に,各科ごと,重症度ごとに把握し連絡する.

また可能であれば医療救護班の派遣を考慮する.内科系や精神科スタッフが必要となる時期である.現地では医療資器材,食料,寝具などは確保できないことがあるのでこれらを持参する.派遣でいなくなるスタッフの穴も残りの人数で補う必要がある.

おわりに

内科医師は特に災害亜急性期~慢性期に活躍すべき場がある.増加する内科系疾患に対応するのはもちろん,病院内外の様々な問題に対して調整役やリーダーとして積極的に活動するのが望まれる.また災害時にこのような活動ができるよう,普段から自分の専門領域ばかりでなく,裾野の広い医療活動を実践していただきたい.

 

Keywords

被災地病院,深部静脈血栓症,タコツポ型心筋症,避難所巡回
〔日内会誌 99:1970~1972,2010〕

文献
  1. 日本LPガス協会ホームページ
    http://www.j-lpgas.gr.jp/feature/saigai.html
  2. 高橋 孝.他:2007年能登半島地震後の避難所にて発生したノロウイルス胃腸炎のアウトブレイク.感染症学雑誌 82:732-733.2008.
  3. 内閣府ホームページ阪神・淡路大震災教訓情報資料集
    http://www.bousai.go.jp/1info/kyoukun/hanshin_awaji/data/detail/2-1-2.html
  4. 中村忠夫.他:新潟県中越地震.車中泊避掛こよると考えられる肺血栓塞栓症の3例と小千谷市における下腿静脈血栓患者の実態について.新潟県医師会報 686:9-12,2007.
  5. 阪神・淡路大震災と国立神戸病院-記録集と院内シンポジウム-国立神戸病院 平成7年10月.
  6. Sato M.et al :increased incidence of transient left ventricular apical ballooning(So-Called ‘Takotsubo’ Cardiomyopathy) after the mid-niigata prefecture earthquake.circulationjournal 70:947-953,2006.
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