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医療支援編(避難所編)

医療支援編(避難所編)

藤田 俊夫 (長岡赤十字病院)

はじめに

 地震,水害等の大きな自然災害においては,多くの被災者が長期間の避難所生活を余儀なくされる.多くの場合,地域の学校の体育館や公民館などに避難所が設置される.しかしその避難所も多くは,寒く,騒がしく,プライバシーもない,環境衛生的には劣悪である場合が多い.そのような状況下で,避難民に対する医療と健康管理を行っていく必要がある1).また特に被害が大きく,被災地の災害拠点病院や基幹医療機関が機能しない場合や,多忙となった場合は,避難所での医療が一定期間重要な位置を占めるようになる2).先の中越地震においては,ピーク時10万人が避難所生活を送った.長岡市内では125カ所の避難所が設置され,山古志村では全村避難の10月25日から仮設住宅移動の12月20日まで長期間にわたり,避難所が開設されていた.当院は病院周辺の被害が少なく,病院機能も保たれていたため,発災翌日未明より避難所巡回を行い,山古志村民避難所へは避難所閉鎖まで巡回診療を行った.更にその後の中越沖地震においても,1カ月間にわたり避難所診療を行った.当地域での2回の大きな地震と水害や豪雪に伴う,避難所医療の貴重な経験を元に,避難所や救護所などでの医療支援について述べていく.

1.出動までの準備(カード1)

 発災直後に迅速に医療法を派遣することは決して容易なことではない.発災直後には情報が出てこず,大災害であるほどその傾向は顕著となる.また行政の対応は充分かつ正確な情報に基づいて行われるため,要請を待っての出動では間に合わないこともある.しかし災害医療においては,発災直後超急性期より多様な医療支援が必要とされる1).そこでまず重要となるのが情報収集である.災害の種類,発生時刻,場所,被害状況(物的・人的被害,特に傷病者致,傷病の性状),現地の気象状況(気温,天候等),救護活動の進捗状況(他機関の活動状況等),被災地までの道路状況などの情報が重要となる.これらの情報は入ってくるのを待つだけでなく,自ら収集に努める必要がある.そして出動の時期を失することがないよう,必要な情報は後から補充することも必要となる.次いで班員を選出し,携行物品の準備を行う.携帯医療セット,個人装備についてそれぞれ準備を行う.以上の準備を整え,なるべく迅速に出動できるようにする.迅速に準備を整えるには,携行物品は非災害時よりあらかじめ準備をしておくこと,出動までの訓練を非災害時より行っておくことが大切と思われる.また被災地到着後速やかに対応ができるように,班員それぞれの業務を確認しておくことが重要となる.これは移動中の車両等においても可能である.

2.携帯医療セット内容(カード2,3)

 標準的な携帯医療セット内容をカード2に,携帯医薬品をカード3にそれぞれ示す.災害の原因や周辺の状況,更に災害規模や発災後の時間経過によっても,必要物品は変わってくる.物品準備においても,必要とされる医療,救護活動の状況についての情報が重要となる.

3.到着から診療開始まで(カード4)

 被災地に到着後は,まず現地(市町村)災害対策本部への到着連絡を必ず行う.そして他の診療機関や救護機関への到着連絡もあわせて行う.出動の指示を行った自病院へも到着連絡を行う.到着連絡と平行して,現地(市町村)災害対策本部機構の把握や被害状況・救護進行状況の確認などの情報収集も行う必要がある.診療開始までで最も重要なことは,災害対策本部・他機関と綿密に業務打ち合わせを行うことである.同じ避難所にいくつもの救護班が入るような状態を作らないように,またひとりの患者に対して別々の救護班による異なった診療と異なった重症度判定が行われないようにしなければならない.そのような点で,中越沖地震の経験から,災害時医療コーディネーターのもとでの業務調整が重要と考えられる.救護班内では,基本的業務分担の確認を行い,救護所開設場所を決定する.開設地周囲環境,電源,利水及び開設地の安全性などを確認して,場所を決定するが,一般的に体育館や公民館などの劣悪な環境のなかでの設置となり,かつ最初はオープンスペースでの診療となる場合が多い.そのような場合でも2つの衝立をうまく使って,区切りを作ることにより,プライバシーが確保された診察を行うこともできる.救護所の設置場所が決定した後は,トリアージ体制や負傷者搬入ルート手段,重傷者後送ルート・手段の確認を行う.

4.救護所,避難所での業務(カード5,6)

 救護所,避難所での業務においても,被災地での情報収集(被害状況や救護進行状況について)がやはり重要となる.ついで救護所を設置したことを広報し,傷病者の受付を開始する.医療救護の実際においては,発災後の時間経過と共に状況も変化するため,情報収集に努め,臨機応変に対応することが重要となる.また災害時医療コーディネーターのもとでの業務調整も重要となる.避難所においては感染症や伝染病に対する防疫対策も重要となる.この防疫対策こおいては,ボランティアや保健師等の協力も必要となる.この他に重症者の後方病院への移送依頼や傷病者の収容状況・移送先等の明示も必要となる.次に診療の実際について,過去2回の地震で得た経験を元に,発災後の時間経過に従い示す.

 発災当日~翌日は,避難に伴う外傷(切創,挫創,裂創,骨折など)が多く,外傷の処置や破傷風の予防対策が多くなる.それに加え不安,不眠,食欲不振などの急性期心的ストレス反応を訴える被災者への対応が必要となる.更に定期的に内服している降庄薬や糖尿病薬,睡眠薬等を持ち出せなかった患者への対応や在宅酸素患者や透析患者への対応も必要となる.

 発災数日~1週間は,糖尿病,心不全,腎不全,慢性呼吸器疾患,高血圧などの慢性疾患の悪化や感冒,肺炎・気管支炎,胃腸炎などの感染症,食中毒や便秘,急性胃腸障害が多くなる.これら慢性疾患の悪化や感染症に対する対応に加え,片づけ作業に伴う外傷(切創,挫創,裂創,骨折など)もあり,その処置も必要となる.不安,不眠,食欲不振などの急性期心的ストレス反応に対する心のケアも引き続き必要となる.また2回の地震の経験上,深部静脈血栓症予防に対する啓蒙や肺動脈塞栓症やたこつは型心筋症等の発症にも注意が必要である.

 発災後1週間以後は,感冒,肺炎・気管支炎,胃腸炎などの感染症が多く,それら感染症への対応とやはりこの時期でも急性期心的ストレス反応に対する心のケアが重要である.この時期は日中避難所にいる被災者は少なくなる.そのため巡回診療やターゲットを放った訪問診療も重要となる.また医療班の撤退の時期も重要となる.

おわりに

 災害時医療は近年すっかり様変わりしてきた.発災当日に多数のDMAT(Disaster Medical Assistance Team;災害派遣医療チーム)が参集して,救命医療を行い,また様々な組織からの医療救護虹が多数参加するようになった1).しかし,より迅速で効率的な災害医療が行われるためには,<災害時医療コーディネートチーム>の調整下での組織的な救護活動が望まれる.

 

Keywords

災害医療,避難所,情報収集,災書時医療コーディネート
〔月内会誌 99:2604~2606.2010〕

文献
  1. 内藤万砂文:避録所における健康管理と医療班派遣.災害医療 医療チーム・各組織の役割と連携.へるす出版 187-193.
  2. 中山伸一.他:水書と病院の対応.災害医療 医療チーム・各組織の役割と連携.へるす出版,139-148.
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