災害医療支援と内科医の関わり~サバイバルカード・アクションカードの作成にあたって~
奥村徹 井口清太郎
阪神・淡路大震災,東京地下鉄サリン事件から15年,災害対応体制は年々着実に進みつつある.医療の世界においても,災害拠点病院の指定,各種災害医療研修,DMAT(Disaster Medical Assistance Team)の誕生などがみられるようになった.しかし,ともすれば,災害医療の世界において内科医は救急医や外科医などの活躍の陰で,遠慮がちな存在であったことは否定できない.しかし,実は,災害時においても内科医の役割は大きい.急性期の救急診療に続いて,亜急性期から慢性期にかけて,さらに地域医療の復興に至るまで大きな力を求められるのは内科医である.また,国民保護法で定められている緊急事態対処事態の典型例であるNBC(Nuclear,Biological,Chemical)テロ(核・放射性物質,生物兵器,化学兵器を使った大量殺傷テロ)においては,緊急被曝医療,感染症治療,中毒治療において内科医の知識は事態対処に重要な役割を期待されている.
そこで今回,専門医部会災害医療支援ワーキンググループでは,災害時の内科医の役割を時系列的に列挙し,災害前から知っておくと役に立つ情報,災害時に手元にあると安心して無難な行動がとれるような,そんなポケットサイズのカード,いわゆるサバイバルカード・アクションカードを作成することになった.
まず,直近の話題として1月に発生したハイチ大地震に対して日本から派遣された国際緊急援助隊医療チームの一員として参加した京都大学初期診療・救急科の山畑先生に,医療支援報告をお願いした.首都直下型の地震がいかに多大な影響をもたらすかおわかり頂けることと思うし,このことはわが国においても決して他人事とは言い切れない.次いで,職業人として活動するためにまず自らを守ることが重要と考え,自らのサバイバルカードを掲載した.その後は,2日目までの超急性期,3日目以降の亜急性期(病院編,診療所編),医療支援を行う立場から,災害拠点病院の立場で,そして最後に「こころのケア」について,各領域の経験者,専門家に執筆して頂いた.
また今回,初めての試みとして,毎号それぞれの内容に合わせたサバイバルカード・アクションカードを付属した.サバイバルカードについてはカードサイズに,またアクションカードについては手帳サイズに折りたたむことができるものであり,必要に応じて携帯できるように工夫されたものである.これは,日本内科学会にとっても日本の医療系学会にとっても初めての試みであるため,荒削りな印象を読者諸氏に与えることと思われるが,読者諸氏からの忌憚ないご意見をふまえ,改訂を繰り返し,より実用的なサバイバルカードを目指したいと考えているので,皆様方のご協力,ご指導を仰ぎたい.
2010年5月
Keywords
災害医療支援,DMAT,内科医,サバイバルアクションカード
〔日内会誌99:1109~1110,2010〕