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災害拠点病院編

災害拠点病院編

鈴木 貴博 (川崎市立川崎病院総合診療科)

はじめに

まず確認していただきたいことが3つある(カード1).

第1に,自分の所属する病院は災害拠点病院か?
もしそうであれば,地域災害医療センターか,基幹災害医療センターか.
仮に災害拠点病院でなくとも,被災地内の医療機関であれば行うべきことは多々ある.被災地内の医療機関は自らも被災者となるが,被災現場において最も早く医療救護を実施できることからその役割は重要である.この点については他稿を参照されたい.
第2に,災害拠点病院に振り当てられている番号,パスワードは?
災害拠点病院には都道府県から振り分けられた番号とパスワードがある.もし不明であれば事務局に問い合わせて確認しておいていただきたい.
第3に,病院災害対策マニュアルがあるか?
もしなければ委員会等で策定をお願いしたい.机上シミュレーション,実動訓練を行ってそれを検証し,より良い災害対策マニュアルへの改訂を行うとなおよい.訓練でできないことは災書時にもできないとはよく言われる.

1.災害拠点病院について

1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災を教訓に,災害時における初期救急医療体制の充実強化が図られている.すなわち,地域の医療機関を支援するための災害拠点病院の整備,災害時に迅速かつ的確に救援・救助を行うための広域災害・救急医療情報システムの整備.災害医療に係る保健所機能の強化,搬送機閑との連携などがそれである.都道府県は医療上の施設や設備,搬送設備などの要件を満たす医療機関を災害拠点病院に指定している.災害拠点病院は地域災害医療センターと基幹災害医療センターの2種類が整備されている1)

地域災害医療センター
多発外傷,圧挫症候群,広範囲熱傷等の災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能を有する病院である.被災地からのとりあえずの重症傷病者の受入れ機能を有するとともに,傷病者等の受入れ及び搬出を行う.広域搬送への対応機能,自己完結型の医療救護チームの派遣機能,地域の医療機関への応急用資器材の貸出し機能を有する.原則として二次医療圏毎に1カ所設置されている.
基幹災害医療センター
上記の機能を強化し,要員の訓練・研修機能を有する病院である.原則として,都道府県毎に1カ所設置されている.

2.被災地内の災害拠点病院の役割(カード2)

「多数の災害傷病者に対して最大多数に最良の医療を提供する」という災害医療の最終目的を達成するため,災害拠点病院においては平時の救急医療であれば救える命をできるだけ失わないように,傷病者の安定化処置とともに後方搬送を含めた任務を行う.その具体的な役割についてカードに列記した.

1)災害時に近隣病院の拠点となる.
病院の持てる人的物的資源および設備を活用し災害時に医療の拠点となる.災害拠点病院は周辺地域や近隣病院から重症傷病者が搬送され集められる拠点であると同時に,都道府県庁や市町村との間に防災無線の設備があり情報が集約される拠点でもある.このため,関連機関と被害情報・患者情報を共有する重要な機能を担う.この際,広域災害救急医療情報システム(EMIS)に入力し,情報発信することは極めて重要である.緊急時入力は発災直後情報でおおむね30分以内に入力詳細情報は医療機関情報で1回だけではなく経時的に入力する.具体的には広域災害救急医療情報システム(EMIS)2)の災害関係者ログインを行い,“はじめに”で記載した病院のIDとパスワードを入力して行う.これにより,病院の被災状況や行える医療,あるいは必要な医療支援を発信でき,不足するマンパワーや医療資器材を重点的に投入してもらうことが期待される.
2)重症傷病者を受け入れ安定化処置を行う.
集められた重症傷病者に対して安定化処置を行う.これにより災害死を極力防ぐとともに,被災地内では救命できない傷病者を後方搬送するための準備とする.
3)参集するDMAT(disaster medical assistance team)を受け入れる(カード3).
被災地内災害拠点病院にとって災害超急性期に駆けつけてくるDMATは極めて重要なパートナーである.またDMATにとっても災害拠点病院支援活動は最優先の活動である3).被災直後は病院職員のみで対応しなければならないが,被災している職員もいることや医療物資が不足し,被災地内災害拠点病院は人的物的資源が不足している.このため,国や被災都道府県は発災後直ちにDMATの派遣を要請し,被災地外のDMATは被災地内の災害拠点病院に参集する.参集DMATは被災地内の災害拠点病院の病院長の指揮下に入り支援活動を行う.
4)後方搬送すれば救命できる患者を選別し搬送の手配をする.
参集DMATの協力も得て安定化処置を施した重症傷病者のうち,後方搬送すれば救命できる患者についてはヘリコプターや救急車にて搬送する.この際に市町村や都道府県,受け入れにあたる災害拠点病院との連絡調整を行う.
5)広域医療搬送適応患者を選別し SCU(Staging Care Unit)に搬送する手配をする.
政府は被害が甚大な大規模震災として東海地震,東南海・南海地震,首都直下地震について,広域医療搬送を実施することを想定して事前計画を作成している4).SCUとは広域医療搬送拠点での臨時医療施設のことで,被災都道府県庁が設置する3).ここには被災地内の災害拠点病院から適応患者が集められ症状の安定化とともに,自衛隊等の航空機による広域搬送のためのトリアージが行われる.

3.病院災害対策本部の設置(カード4)

被害の大きい災害が発生したら迷わず病院災害対策本部を設置することが重要である.そして,本部設置の時間と場所を院内にアナウンスすることで,本部で情報集約を行うことを一般職員に知らせるとともに,非常事態を病院内に宣言する.本部に要員を招集するとともに,情報の固定化のため本部では決定事項・指示内容や収集した情報を白板に24時間制での記載を開始する.同時に病院の人的・物的被害の把握をすすめ,それらをEMISで院外に発信する.

また本部を設置したことを都道府県庁,市町村の防災担当者に伝達し以後定期連絡を行う.

4.発災時に被災地内災害拠点病院で行うべき事項(カード5)

主な事項について時系列で記載しチェックリストとした.災害拠点病院が有効に機能するために最も重要なのが1)の災害対策本部の設置であり指揮命令系統の確立である.その時点のマンパワーに応じて院内職員を役割ごとに分担配置し,責任者を任命する必要がある.ただし,本部がすべての許認可権を有するのではなく,現場で行われる活動については基本的には現場の判断を尊重する.本部は現場での活動を把握し,より活動を行いやすくするためのサポートを行う.

1)~8)は発災日当日に行うことになる.7)のマスコミ対応は重要である.病院の被災状況,医療活動の現状,傷病者情報などについて,定期的な記者会見を開催して情報発信する必要がある.このためマスコミ対応者,記者会見場などはあらかじめ病院災害対策マニュアルで決めておく必要がある.8)については病院外からの支援であり,受付をどうするか,受け入れる部屋はどこにするかなどを決めておく必要がある.

5.内科医の災害医療活動(カード6)

災害時に内科医として何ができるかについて以下に私見を述べる.これら以外にも状況に応じて行うべきことは多々あると思われる.内科医にはその場におけるニーズを見出し臨機応変に対応する応用力が求められるであろう.

1)災害対策本部での病院幹部の補佐(参謀役)
内科医師は病院内の各部門と連携して業務にあたっている.災害時,救急科医師や外科系医師は外傷に伴う救命処置に追われることになると思われることから,少なくとも内科医師1名は災害対策本部に入って調整機能を担い,病院三役など幹部の補佐にあたることが望ましい.
2)急性期:救急科を中心とする外傷治療のサポート,軽傷処置
災害拠点病院は急性期には重症傷病者の受け入れを行わなければならない.当然のことながらマンパワーが不足するため,内科医師は救急科医師を中心に展開される外傷治療について専門外であっても医療者としてそのサポートや軽傷処置を担う必要が出てくると思われる.
3)亜急性期・慢性期:内科疾患の治療・メンタルケアサポート
急性期を過ぎると外傷治療の需要が減り,内科的な問題を抱える傷病者が増えて治療の必要が増してくる.災害時特有の疾患のみならず,通常の内科疾患やメンタルな障害を有する傷病者も増えるので,精神科医師とも相談しながらそれらの対応も必要となる.
4)病棟業務
地震災害では病棟も被災し,入院患者や職員も被害を受ける.発災当初は傷害の軽度な職員は重い傷害を負った職員や入院患者等の救護を行わなければならない.内科医師は看護師や他診療科医師と協力して被災した入院患者や職員の救護,入院患者の医療継続を行う必要がある.また,災害拠点病院では重症傷病者の受け入れのため,空床を確保する必要がある.そのためには入院中の軽症患者の帰宅支援なども必要となり,看護師等と協力してこれをすすめていかなければならない.

おわりに

自分の病院が都道府県から災害拠点病院に指定されていることを知らずに勤務している職員はかなり多いと思われる.もし災害が起きた時には,好むと好まざるにかかわらず,災害拠点病院として重症傷病者を受け入れて少しでも救命できる災害死を減少させる任務を負っている.災害が起きないに越したことはないが,地震国である我が国においては望むべくもない.災害の被害を少しでも減ずるためには平時からの準備が必要であり,一朝有事の際に災害拠点病院としての活動にあたり,内科医の役割は重要である.そのため本稿が少しでも役立てば幸いである.

Keywords

災害拠点病院,病院災害対策本部,広域災書救急医療情報システム(EMIS),情報共有,disaster medical assistance team(DMAT)
〔日内会誌 99:2872~2875,2010〕

文献
  1. 災害拠点病院等データベースWeb版 http://www.edm.bosai.gojp/project/project1/hospitalInfo/index.php
  2. 災害拠点病院整備事業の実施について http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/190416-1/190417-1houdou_h_s3.pdf
  3. 広域災審救急医療情報システム(EMIS) http://www.wds.emis.or.jp/
  4. 8本DMAT活動要領 http://www.dmat.jp/DMAT_active.pdf
  5. 我が国の地震対策の概要 http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/taisaku_gaiyou/gaiyou_top
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