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超急性期 最初の二日間

内科医のための災害医療活動-超急性期 最初の二日間

阿南 英明 (藤沢市民病院)

はじめに

 現在,災害発生数時間後にはDMAT(disaster medical assistance team 災害時派遣医療チーム)を代表とする医療チームが被災地に入って救援活動を開始することが見込まれる1).しかし,あらゆる被災地域において十分な救援活動が迅速に展開されるとは限らず,被災者であったとしても,内科医として,医師として行うべき災害医療活動はあるはずである.本稿では災害発生直後の約2日間(超急性期)に内科医としてのどの様な活動をするかやその注意点を述べる.

1.患者救助,救出,避難誘導

 目の前の傷病者が危険にさらされている場合救助する.災害時には消防は広範囲,多数の傷病者に対応しきれず,119番通報をしても救援には来られないことが多い.まずは自分たちでできる限りの救助を行う.自助・互助は災害対応の基本である.また自施設の外来,入院患者の安全確保は責任を持って行う必要がある.

2.医療機関の被災情報,医療の需要情報発信(カード番号2,3)

 自施設や地域がどの程度被害を受けているのか,ライフラインの被害状況,傷病者の数や重症(傷)度 外部からの患者受け入れ可否,救援の安否など状況把握は重要である.そしてその情報を発信することで地域の医療需要が判明する.このような情報発信を菅が必ず行うことを標準化することができれば,逆に情報が発信できない地域や施設がある場合にライフラインの途絶や大量の患者発生など被害の甚大さを示すことにもなる.しかし現状では災害拠点病院以外でこのような情報発信ツールの確保は困難なことが多い.それぞれの地域によって,こうした情報の集約場所(地域医師会,病院協会,市町村など)や方法(電話,インターネット,無線など)は様々であることが予想される.開業している場合,近隣の医療機関同士で連絡を取り合うだけでもよいから,被災状況を発信することに努めてほしい.これが安否確認と医療需要確認の第一である.

3.診療科目にこだわらずに医療活動 -外傷対応やトリアージ-

 地域防災計画に基づいた医療活動や地域医師会など,各地域で作成された災害時計画に基づく活動が存在するなら,それに基づく活動を行うことになる.そのような計画がない場合には,自分の勤務医療機関(病院.医院)で活動を開始することや,時に災害拠点病院や近隣基幹医療機関に赴いて医療活動支援を実施することも選択肢としてあり得る.この場合,地震災害では超急性期(発災後48時間程度)には外傷患者が多数出現する.医師として診療科目に関係なく様々な患者への対応が求められる.外傷処置は不得手かも知れないが,軽傷患者の対応を行ったり,多数傷病者のトリアージに携わったりすることが求められる.

トリアージ-図1

【トリアージについて】(カード番号4)
 災害発生時には,医療従事者数や点滴,酸素,薬剤などの医療資機材といった医療資源と傷病者数とのアンバランスが生じる.そのために,平時のように全ての傷病者に対して十分な医療を提供することは困難である.そこで最大多数の傷病者に対して最大限の医療を捷供するために,優先的に治療を施すべき傷病者(通常緊急度,重症度が高い人)を選別することが必要になる.これをトリアージと呼ぶ.トリアージの実施方法は,様々な現場状況,傷病者数と救援者とのパワーバランス,目的などによって異なる.米国を中心にわが国でも広く泣透している簡便な方法としてSTART(Simple Triageand Rapid Therapy)法がある2).ここではこのSTART法について解説し災害時に最も基本的なトリアージ方法として会員の皆さんに実施していただくことを願う.
START法(カード番号5)
 トリアージの大原則は選別を実施している間はこれに専念し,医療処置は実施しないことである.例外として気道確保と活動性出血(血管から持続性に出血している状態)に対する止血だけは実施してよい.通常トリアージの結果,1)最優先治療群,2)待機的治療群,3)保留群(軽症),4)死亡群(生存困難群ともいう)の4つのカテゴリーに分類し,患者診療や搬送の優先順位に反映させる(図1).
実施手順
  1. 先ず傷病者が歩けるか否かを判断する.歩行可能なら保留群→緑の判定.
  2. 歩行不可能なら気道,呼吸,循環,意識を順番に確認する.呼吸停止が疑われる場合,気道確保を行い呼吸がなければ死亡群→黒の判定
  3. 呼吸が確認された場合,異常な呼吸でないかの確認をする.異常なのは1分間に30回以上,または9回以下の場合で,最優先治療群→赤の判定
  4. 呼吸に問題がない場合,循環の把握をする.言うなればショックの認知である.寒冷地の屋外でなければ毛細血管再充満時間(爪を5秒程度圧迫すると爪は白くみえる.その後圧迫解除後ピンク色の色が回復するまでにかかる時間をいう.通常は2秒以内)が2秒以上かかる場合はショックを考え最優先治療群→赤に判定.橈骨動脈の触知の有無で代用することもできる.
  5. ここまでいずれも問題がない場合,意識確認として従命反応の有無を観察する.救援者の指示に従う動作ができない場合,頭蓋内に大きな損傷を疑って最優先治療群→赤の判定
  6. 歩行は不可能であるが気道・呼吸・循環・意識のいずれにも問題がない場合は待機的治療
    群→黄の判定(図2).

START-図2

4.DMATが到着した場合,適切に情報を伝達・共有し,新たな役割分担を実施する

 DMATは災害現場において被災地の情報を把握し,医療ニーズの高い場所で特殊な医療活動を実施する(6月号に説明済み).おもに被災地の災害拠点病院に赴いて医療支援を行うので,個々の診療所への救援活動はおそらく望めない.会員の勤務地あるいは応援施設にDMATが来た場合には,災害医療に関する特殊技能を生かしてもらうために情報を伝え,改めてDMATと医療機関職員との役割分担を決め,業務の引き継ぎをスムーズに行うことが肝要である.

5.内科疾患の中でも災害発生1~2日間に気を付けるべき病態もある(カード番号6)

 災害時には,普段処方されている薬剤を持ち出す間もなく避難する.心不全,呼吸不全などのように重篤な病態はもちろんであるが,慢性の病態でも間断なく診療や治療・投薬が継続されなくてはならない病態が存在することにも目を向ける必要がある.例えば慢性腎不全による透析患者,在宅酸素療法施行中の患者,ステロイド内服中の患者やインスリン使用中の糖尿病息者など,数日間と言え途切れることが病態を悪化させる可能性がある患者の存在に目を向けなくてはならない,このような病態に対処するために,内科医の立場でこれらの患者の存在の把握と緊急対処を実施する必要がある.具体的な例として透析患者の場合,「たかが1日」と言って透析を先延ばしにすることは生命の危険に繋がりかねない.これに関しては日本透析医会がネットワーク化を図って災害直後から透析を継続できる体制を囲っている(日本透析医会ホームページ http://www.touseki-ikai.or.jp 参照).実際2004年に発生した新潟県中越地震では,発災後24時間以内にこれらのネットワークを利用して,早期に患者受け入れ施設や移動手段などの具体的な対応が行われた実績がある3).在宅酸素療法施行中の患者は酸素の中断が生死に係わる事態になり得る.日本呼吸器学会,日本呼吸器疾患患者団体連合会の取り組みがあるので,災害直後より酸素が供給される体制を構築しなくてはならないことを肝に銘じる必要がある.長期間ステロイドを使用している患者の中断は原病の悪化のみならず,副腎機能不全を生じて非常に危険な状況に陥る可能性を秘めている.インスリン使用患者(特に1型糖尿病)に至っては,使用の中断が生死にかかわることもある.このような事態への対処は内科医ならではのきめ細やかな配慮が効果を発揮すると期待される.

6.平時確認しておくこと

 いざ災害が発生してからでは対応が困難なことばかりである.平時にこそ,以下に示す各項目に関してそれぞれに事前確認をしておくとよい.

  1. 地域としての災害医療体制構築-地域医師会と地域の基幹病院間の調整や連絡先,方法を確認する.
  2. 災害拠点病院の地理的位置と役割を確認する.
  3. トリアージの方法について知っておく(STARTなど).
  4. DMATが何かについて知っておく.
  5. 途切れることが危険な慢性病態に対する治療や投薬患者のリストアップや準備しておく.
    例) 透析患者,在宅酸素療法患者,ステロイド長期使用患者,インスリン使用患者

おわりに

 発災直後から2日間は被災地内において混乱は必至である.専門診療科に拘ることなく実施すべき活動と,それとは反対に内科医ならではの配慮や取り組みを示し,平時からの準備の重要性を述べた.

 

Keywords

トリアージ,透析,在宅酸素,インスリン,ステロイド
〔日内会誌 99:1711-1714,2010〕

文献
  1. 大友康裕:DMAT(災害派遣医療チーム)とは.プレホスピタルMOOK9 DMAT.大友康裕編.永井書店,大阪,2009.1-12.
  2. Benson M,et al:Disaster triage:START.then SAVE- a new method of dynamic triage for victim of a catastrophic earthquake.Prehospital Disaster Med 11:117-124.1996.
  3. 武田稔男.吉田豊彦:災害時の対応-現在(1)全国災害情報ネットワーク,臨床透析 22(11):1511-1516.2006.
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