このページでは,学術講演を行う際の著作権に関するQ&Aを掲載いたします.
■1.著作権に関する基本事項
Q1:「著作権(Copyright)」とは何ですか?
A:知的財産権の一つ.文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する著作物をその著作者が独占的に利用して利益を受ける権利.原則として著作者の死後70年までを権利の保護期間とします.
なお,産業的財産権は特許庁に出願し,登録を受けて初めてその人の権利となりますが,著作権の場合は,産業財産権とは異なり,著作物を創作したと同時に権利が発生します.(無方式主義)
なお,産業的財産権は特許庁に出願し,登録を受けて初めてその人の権利となりますが,著作権の場合は,産業財産権とは異なり,著作物を創作したと同時に権利が発生します.(無方式主義)
Q2:著作権制度とは何ですか?
A:著作権制度はこのような著作物を生み出す著作者の努力や苦労に報いることによって,日本の文化全体が発展できるように,著作物の正しい利用をうながし,著作権を保護することを目的としています.
Q3:著作権法について教えてください
A:著作権に関係するルールは「著作権法」という法律で定められています.
著作権が発生する著作物とは何か,著作権にはどのような種類があって,どのように権利が保護されるのかなど,「著作権法」は,著作権について判断する基準となっています.
著作権が発生する著作物とは何か,著作権にはどのような種類があって,どのように権利が保護されるのかなど,「著作権法」は,著作権について判断する基準となっています.
Q4:著作権の定義について教えてください.
著作権法上,保護される「著作物」であるといえるためには,次の4つの要件のすべてを満たしている場合となりますが,とくに重要な要件は「創作的」「表現」です.
1)「思想又は感情を」
補足1:人口,GDP(Gross Domestic Product)などの単なるデータは,著作物に該当しません.
2)「創作的に」
補足2:著作者独自の知的創造活動の表れ(個性の表出)が見られることが必要です.
3)「表現した」
補足3:他人が知ることができるように外部に表現されていることが必要です.
4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」
補足4:工業所有権の対象となる機械的,技術的,実用的な作品にすぎないものは,著作物には該当しません.
1)「思想又は感情を」
補足1:人口,GDP(Gross Domestic Product)などの単なるデータは,著作物に該当しません.
2)「創作的に」
補足2:著作者独自の知的創造活動の表れ(個性の表出)が見られることが必要です.
3)「表現した」
補足3:他人が知ることができるように外部に表現されていることが必要です.
4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」
補足4:工業所有権の対象となる機械的,技術的,実用的な作品にすぎないものは,著作物には該当しません.
Q5:著作権に該当しない例として
事実(地球が回っていることや,歴史的な出来事等)やデータ(株価や気温,人口動態統計等)は,人の精神的な活動で産み出したものではなく,「思想又は感情」にあたりません.したがって,事実やデータそれ自体は「著作物」にあたりません.
ただし,事実やデータを用いて具体的に表現された文章は,「著作物」に該当する場合があります.この場合,その文章の複製などは,著作権侵害となります.
これに対し,その文章を利用するのではなく,その文章中の事実やデータのみを取り出し,自ら文章を作成するなどして利用することは,著作権侵害となるものではありません.
*独創的な思想や斬新なアイディアを思い付いたとしても,それが具体的に表現されていなければ,「著作物」には該当しません.
例えば,研究を重ねて到達した学説(万有引力の法則等)は,それ自体は思想やアイディアに過ぎず,著作権の保護は及びません.したがって,こうした思想やアイディアを利用することは,著作権の侵害となるものではありません.
もっとも,こうした思想やアイディアも文章で具体的に表現された場合(万有引力の法則の解説書等),当該具体的に表現された文章に創作性が認められれば「著作物」に該当する可能性があります.ただし,この場合に著作権で保護されるのは,具体的な文章表現であり,思想やアイディアそれ自体ではありません.
ただし,事実やデータを用いて具体的に表現された文章は,「著作物」に該当する場合があります.この場合,その文章の複製などは,著作権侵害となります.
これに対し,その文章を利用するのではなく,その文章中の事実やデータのみを取り出し,自ら文章を作成するなどして利用することは,著作権侵害となるものではありません.
*独創的な思想や斬新なアイディアを思い付いたとしても,それが具体的に表現されていなければ,「著作物」には該当しません.
例えば,研究を重ねて到達した学説(万有引力の法則等)は,それ自体は思想やアイディアに過ぎず,著作権の保護は及びません.したがって,こうした思想やアイディアを利用することは,著作権の侵害となるものではありません.
もっとも,こうした思想やアイディアも文章で具体的に表現された場合(万有引力の法則の解説書等),当該具体的に表現された文章に創作性が認められれば「著作物」に該当する可能性があります.ただし,この場合に著作権で保護されるのは,具体的な文章表現であり,思想やアイディアそれ自体ではありません.
Q6:学術講演に関連する著作物は何がありますか?
1) 学術的なデータ等において, 単なる数字や事実の羅列である場合は,「創作的表現」がないことから,著作物ではありません.しかし,「創作的表現」(著作権法2条1項1号)が含まれる場合は知著作物となります.
Q7:「複製」について教えて下さい.
A:複製:「複製とは印刷,写真,複写,録音その他の方法により有形的に再製することである.(法第2条第1項第15号)
多少の修正・増減を加えて再製する場合であっても,著作物としての同一性の範囲内であると認識されるものも含まれます.
多少の修正・増減を加えて再製する場合であっても,著作物としての同一性の範囲内であると認識されるものも含まれます.
Q8:「引用」について,教えてください.
A: 引用:「公表された著作物は,引用して利用することができる.この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない.」(法第32条第1項).即ち,「引用」の要件を充足すれば,著作者の承諾なく,当該著作者が創作した著作物を利用することができます.
*引用する際に必要な要件
ア 引用対象著作物が,既に公表されている著作物であること
イ 明瞭区別性(自身の著作物と,引用対象著作物が,明瞭に区別されていること)
ウ 主従関係(自身の著作物が「主」であり,引用対象著作物が「従」であること)
エ 「出所の明示」が必要
*引用する際に必要な要件
ア 引用対象著作物が,既に公表されている著作物であること
イ 明瞭区別性(自身の著作物と,引用対象著作物が,明瞭に区別されていること)
ウ 主従関係(自身の著作物が「主」であり,引用対象著作物が「従」であること)
エ 「出所の明示」が必要
Q9:引用する場合,出所の明示はどのようにすればいいのでしょうか.
A:「引用」とは,例えば自説を補強するために自分の論文の中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のことをいいますが,著作権法に定められた要件を満たしていれば著作権者の了解なしに著作物を利用することができます(第32条第1項).
この場合,引用される著作物の出所の明示(出典を明記すること.なおコピー以外の方法(例 講演の際に他人の文章を引用し口述)により引用する場合はその慣行があるときに必要となります)を義務付けています(第48条).
この場合,引用される著作物の出所の明示(出典を明記すること.なおコピー以外の方法(例 講演の際に他人の文章を引用し口述)により引用する場合はその慣行があるときに必要となります)を義務付けています(第48条).
Q10:引用に際し,原著作者の著作者人格権に関して注意することはありますか.
A:引用するに際しては,原著作者が有している著作者人格権を害することは許されません.著作者人格権のなかで最も重要な権利が,内容同一性保持権です.したがって,原著作者の文章を,勝手に改変することなく,引用しなければなりません.
引用の仕方によって(例えば,誤訳があった場合や,断片的な引用で,著作者の主張と異なる主張をしているように受け取られる場合など)は,内容同一性保持権の侵害となるおそれがあり,著作者の名誉又は声望が傷つけられたとして著作者人格権の侵害とみなす行為(第113条第6項)に該当する可能性があります.
引用の仕方によって(例えば,誤訳があった場合や,断片的な引用で,著作者の主張と異なる主張をしているように受け取られる場合など)は,内容同一性保持権の侵害となるおそれがあり,著作者の名誉又は声望が傷つけられたとして著作者人格権の侵害とみなす行為(第113条第6項)に該当する可能性があります.
Q11: 講演で,他人の作成した資料などをスクリーンに映写しながら説明する場合,著作者の許諾が必要でしょうか.
A:自説を補強するために他人の著作物の利用を認めた「引用」に該当する場合(第32条)や非営利・無料・無報酬の著作物の上映(静止画の映写も上映に含まれます)(第38条第1項)に当たる場合は,著作者の了解なしに使えますが,それ以外は著作者の了解が必要です.
講演の場合は,講師の話の補強材料に使われることが通常でしょうから,多くの場合において「引用」といえるのではないかと考えられます. 「引用」する際に必要な要件は,Q8をご参照ください.
講演の場合は,講師の話の補強材料に使われることが通常でしょうから,多くの場合において「引用」といえるのではないかと考えられます. 「引用」する際に必要な要件は,Q8をご参照ください.
Q12:ホームページに掲載されている文章やイラストを,自分の勉強のため,ダウンロードしたり,プリンターで打ち出したりすることは,著作者に無断でできますか.
A:ホームページに掲載されている著作物をダウンロードしたりプリンターで打ち出したりする行為は,一般に著作物の複製に該当します(第2条第1項第15号).著作者は複製権を有していますので,利用者は,著作者の了解がないと,著作物を複製できないことが原則です.しかし,個人的な勉強のために複製する場合は,私的使用のための複製に該当し,著作者の複製権が及ばないことになっています(第21条,第30条).
■2.~よくある質問~ FAQ
(1):内科学会の出版物に掲載されたA教授の論文を,大学の授業の教材として利用したいのですが,大学の教室で複製して配付することは可能でしょうか?
A.:教育目的の利用であれば,著作権法第35条の「学校その他の教育機関における複製」にあたりますので,著作者の許諾なく,複製することができます.なお,著作者の利益を不当に害することとなる場合はこの限りでありません.
その場合は,事前に著作者への申請・許諾が必要となります.
その場合は,事前に著作者への申請・許諾が必要となります.
(2):内科学会の出版物に掲載されたA教授の論文を,第三者が,大学病院ではない病院内の研修でテキストとしてそのまま使用することは可能でしょうか?内科学会の出版物に掲載された記事を複写して,問題集を作り,販売したいのですが可能でしょうか?
A. 著作権法第35条の「学校その他の教育機関における複製」に該当しないので,事前に,学会および著作者の了解を得る必要があります.
(3):他の出版物に掲載された記事の一部あるいは図面を,自己の論文の本文中で引用したいのですが,どのような点に注意すればよいでしょうか?
A. 著作権法で正当な範囲において引用することは認められています.一般に引用するには,引用するに際して必要な要件はQ8をご参照ください.出所(記載例:著作者名,書名(題号),雑誌名,巻,号,ページ,発行年など)を明記することなどが必要とされています.
(4):他の出版物に掲載された他人が作成した図に,手を加えて,自分の論文に利用したいのですが,著作者の許諾が必要でしょうか?
A. 第1に,その「図」が,誰でも書けるような非創作的表現であれば著作物に該当しませんので,その「図」に手を加えて,自分の論文に利用することが可能です.
第2に,その「図」が,著作物(創作的表現)である場合は,その「図」を自分の論文に利用するためには,「引用」をすれば,図の脚注に出所元を明記するだけで利用できます.但し,海外の論文の図などを引用する場合は,文献毎のPermissionsやPermission RequestをクリックしてCopyright Clearance Center(CCC)のRights LinkのHPに入り,ここでアカウントを作成し,個別に必要事項を入力して発注するという手続が増えており,個別に対応を御願いいたします.
第2に,その「図」が,著作物(創作的表現)である場合は,その「図」を自分の論文に利用するためには,「引用」をすれば,図の脚注に出所元を明記するだけで利用できます.但し,海外の論文の図などを引用する場合は,文献毎のPermissionsやPermission RequestをクリックしてCopyright Clearance Center(CCC)のRights LinkのHPに入り,ここでアカウントを作成し,個別に必要事項を入力して発注するという手続が増えており,個別に対応を御願いいたします.
(5):他者の論文などに掲載されているデータ(グラフ)をそのまま利用したり,また加工することは,できますか
A:単なる数字や事実の羅列は,「創作的表現」がないことから,著作物ではありませんから,許諾なく利用することができます.
但し編集・表現の過程で工夫が凝らされているもの,また個性的な着眼点から創作されたものなどは,著作物である可能性が高く,さらにデータの収集,検証方法自体にオリジナリティーが認められる場合は著作物である可能性が高いので,注意を要します.その場合は,「引用」(Q8をご参照ください.)をすれば,利用することができます.
但し編集・表現の過程で工夫が凝らされているもの,また個性的な着眼点から創作されたものなどは,著作物である可能性が高く,さらにデータの収集,検証方法自体にオリジナリティーが認められる場合は著作物である可能性が高いので,注意を要します.その場合は,「引用」(Q8をご参照ください.)をすれば,利用することができます.
他人からもらったスライドを利用したいのですが,一切手を加えられないのでしょうか,作者の承諾があれば可能ですか
A:スライドに含まれているコンテンツの内容に創作的表現(著作物)が全く含まれていない場合,例えば単なる数字や事実の羅列は直作物ではありませんから,利用することができます.
しかし,スライドに含まれているコンテンツの内容に創作的表現(著作物)が含まれている場合には,「引用」(Q8をご参照ください)をすることにより利用することができます.なお,本質的内容を改変するのではなく,極めて細目的部分を変更するにすぎない場は,原著作者は著作権侵害のクレームを述べる可能性は少ないかもしれないと考えられます.その場合には,“~~を基に一部改訂”のような形で,引用元を明記しつつ,変更した内容を明示すべきです.
しかし,スライドに含まれているコンテンツの内容に創作的表現(著作物)が含まれている場合には,「引用」(Q8をご参照ください)をすることにより利用することができます.なお,本質的内容を改変するのではなく,極めて細目的部分を変更するにすぎない場は,原著作者は著作権侵害のクレームを述べる可能性は少ないかもしれないと考えられます.その場合には,“~~を基に一部改訂”のような形で,引用元を明記しつつ,変更した内容を明示すべきです.
(7):国外の論文・著書を和訳した際は,どのような扱いとなるのでしょうか.
A:例えば,米国のA教授が執筆した英字論文は,A教授が,著作権の一内容である翻訳権を有します(日本の著作権法では27条に規定されています).したがって,日本人のB教授がそれを和訳しようとする場合,著作者であるA教授の許諾を得る必要があります.
もっとも,A教授の許諾を得て和訳した日本語の論文は「二次的著作物」となり,原著作者であるA教授と和訳したB教授の双方が,著作権を有することとなります(著作権法28条).
もっとも,A教授の許諾を得て和訳した日本語の論文は「二次的著作物」となり,原著作者であるA教授と和訳したB教授の双方が,著作権を有することとなります(著作権法28条).
(8):他人が作成したデータを,講演でなく,講義の資料として使用した場合はどうなりますでしょうか?
A:単なる数字や事実の羅列は,「創作的表現」がないことから,著作物でありません.もっとも,当該数字や事実の列挙方法や構成において「創作的表現」が見られるときは,編集著作物に該当し,著作物となりますので,著作者の承諾を得る必要があります.
(9):スライド内に,他者が作成したイラストや,古典の絵画などを,挿入することは可能でしょうか?
A:他者が作成したイラストや古典の絵画は,通常,著作物に該当するので,無断で挿入することはできません.但し,
(1)当該他者の承諾を得た場合
(2)承諾を得なくとも「引用」(著作権法32条)の要件を充足しながら「引用」をする場合,
(3)著作権が消滅している場合
には,許諾を得ずして挿入することができます.
(1)当該他者の承諾を得た場合
(2)承諾を得なくとも「引用」(著作権法32条)の要件を充足しながら「引用」をする場合,
(3)著作権が消滅している場合
には,許諾を得ずして挿入することができます.
(10):学術的/商業的な講演,それぞれの定義はどのようなものでしょうか
A:「教育目的」か「営利目的」かという目的の相違が判断基準となります.
(11):Web上の動画配信という状況での留意点はありますでしょうか?
A:著作物を公衆に送信することができる権利(公衆送信権)は,著作者のみが有しています(著作権法23条).したがって,Web上で著作物を動画配信する際は,著作者の許諾を得る必要があります.
ただし,配信先が限定されており,かつ著作者(製作者)が許諾をしている場合は,著作権侵害の問題は生じないと考えられます.
補足:(1)配信先が限定されており(2)著作者が動画配信行為を許諾している場合という2要件を充足する必要があります.
ただし,配信先が限定されており,かつ著作者(製作者)が許諾をしている場合は,著作権侵害の問題は生じないと考えられます.
補足:(1)配信先が限定されており(2)著作者が動画配信行為を許諾している場合という2要件を充足する必要があります.
(12):自身の作成資料を再使用する場面で,どのような注意点がありますか.
A:著作者は,財産的性質を有する「著作権」と,人格的性質を有する「著作者人格権」の双方を有します.後者は譲渡不可能ですが,前者は譲渡可能です.そこで,本人から他者(出版社etc)へ,財産的性質を有する「著作権」が譲渡されている場合は,当該他者(出版社etc)から事前に利用許諾を得る必要があります.
(13):引用した内容から独自の見解を導き出すこと自体は,問題ないでしょうか.
A:自説を補強するために他人の著作物の利用を認めた「引用」に該当する場合(第32条)や非営利・無料・無報酬の著作物の上映(静止画の映写も上映に含まれます)(第38条第1項)に当たる場合は,著作権者の了解なしに使えますが,それ以外は著作権者の了解が必要です.
(14):YouTubeを利用する場合,どのような点に注意が必要ですか?
YouTubeの内容が著作物に該当する場合,それを引用するときは,出所を明示する必要があります(参照:海上保安庁YouTube運用方針より).