年次講演会
専門医部会主催女性医師支援ワークショップ
「女性内科医が生き生きとワーク・ライフ・バランスを保ちながら仕事を続け社会に貢献するための提言」(案)
専門医部会女性医師に関するワーキンググループ
以下の提言はあくまで「日本内科学会専門医部会女性医師に関するワーキンググループ」での提言となります。その旨、ご了承ください。
平成20年の医師総数に占める女性医師の割合は18.1%であるが、同年の医師国家試験合格者の女性が占める割合は34.5%であり、今後も女性医師割合、女性内科医割合は増加が見込まれる。近年の医師不足の一因として女性医師の出産育児に伴う離職が指摘されており、医師不足解消のために女性医師支援が全国のさまざまな団体で試みられている。
こうした背景のもと、日本内科学会は、基盤学会として最大のものであり、本学会で女性内科医がモチベーションを持って生涯にわたりキャリアを築いてゆく体制を整え、多様な価値観が学会活動に反映されることは医学界全体や社会に対しても意義深く、取り組むべき喫緊の課題と考え、次のことを提言する。
- 全ての学会活動の場面における男女共同参画推進
- 意思決定の場への女性医師の参画推進
- 各種委員会・評議員・理事に女性を最低1人、目標1割以上配置する
- 具体的に数値目標、達成年限を設定する
- 学術集会、講演会における座長、特別講演者は積極的に女性医師に依頼する。
- 意思決定の場への女性医師の参画推進
- 全会員に対する男女共同参画の広報・啓発
- 学会として男女共同参画に取り組む姿勢を明確にし、広報する。
- 学術集会、講演会において男女共同参画をテーマとする企画を盛り込む。
- 学術集会、講演会において女性医師のエンパワーメントを支援する企画を盛り込む。
- 認定医、専門医の認定・更新条件に、男女共同参画に関連する講演の受講証明(他学会の企画も可)を加える。
- 教育病院、教育関連病院の認定・更新条件に院内男女共同参画委員会の設置を加える。
- 内科専門医インセンティブの付与
- 教育病院、教育関連病院の認定・更新条件に、ロールモデル・メンターとしての女性総合内科専門医の配置を加える。
- 女性医師同士のネットワーク作りの促進
- 女性医師のサポートのためのメーリングリストを作成する
- 総会、地方会における女性医師の交流の場を企画する
- メンター紹介
- ロールモデル情報の提供
- ネットワーク作り
- 女性医師相談窓口併設(復職支援)
- 復職支援・子育て等家庭内役割への配慮
- 総会・地方会で、復職支援を意識した教育セミナー、ハンズオンセミナー等を企画し、離職女性医師が優先的に受講できるようにする。
- 教育病院、教育関連病院の認定・更新条件に、離職した女性内科医の復職支援プログラム(研修・セミナー等)を必須とする
- 産休・育休・介護休暇期間の認定医・専門医更新期間延長
- 学術集会、講演会会場での託児室設置
- 学会参加以外の単位取得企画を増やす
- 在宅でも単位取得できる企画を増やす
- 男女共同参画委員会の設置
<補(提言の根拠)>
- 1-A.意思決定の場への女性医師の参画推進: 具体的数値目標の設定
- 平成22年12月17日に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」において、基本的な方針として「実効性のあるアクション・プランとするため、できる限り具体的な数値目標やスケジュールを明確に設定する」ことが打ち出された。そして、平成17年12月27日閣議決定の第二次男女共同参画基本計画に基づいた「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標(2020年30%の目標)の達成に向けて、「クオータ制(割当制)、インセンティブ付与、ゴール・アンド・タイムテーブル方式など多種多様な手段のうち、分野や実施主体の特性に応じて、実効性のある積極的改善措置(ポジティブ・アクション)を推進する、とされた。これを受けて、日本医師会でも、積極的改善措置として「女性一割運動」、即ち平成24年度までに各委員会委員に女性を最低1名登用し女性を一割に、平成26年度までに、理事・監事に女性を最低1名、常任理事に女性を最低1名登用し、役員の女性割合を一割にすることを成果目標とした(平成23年3月1日)。
しかし現在の内科学会の現状はこれに程遠く、女性は理事0名、各種委員会0名(部会を含めると1/172名)であり(日本内科学会誌100: 2020-31, 以下「報告書」、図4)、女性内科医の視点が全く反映されていない。本ワーキンググループが実施した総合内科専門医に対する質問紙調査(以下、「質問紙調査」)で、「女性医師は男性医師と同等にキャリア形成が出来ていると思いますか」という質問に対しても「はい」という回答は有意に男性に多く、問題意識も男女で異なることが示されており(報告書, 図1)、意思決定の場が男性のみで構成されていることが問題であることを示す。同質問紙調査では、男女とも、日本内科学会の評議員や理事に占める女性割合はその構成割合に近い10~20%が適切と答えた回答が最多であった(報告書,図5)。
定数配置の案に対しては、常に「女性に適任者がいない」「運営が滞る」という反対意見が出がちであるが、男性委員を女性に置き換えるのではなく、まずは女性委員を追加する、という発想であれば、たとえ男性委員により運営され女性委員がオブザーバー的存在でスタートしても、女性の視点が全くないよりは遥かに改善されていると考える。 - B.学術集会、講演会における座長、特別講演者は積極的に女性医師に依頼する。
- 現状では座長、講演者は男性が圧倒的に多く、学術的な面において活躍する女性医師のロールモデルが少ない一因となっている。座長、講演者を女性会員の割合に応じて女性に割り振るよう提言している学会もあり(Mizoguchi M. Pigment Cell Res l7(5): 533-544, 2004)、学術集会の場においても男女共同参画が推進される必要がある。
- 2、全会員の男女共同参画の意識啓発
- 質問紙調査では、「女性医師のキャリア形成阻害因子」は、男女とも、妊娠・育児・介護といった実質的な問題の次に高いのは、「ロールモデル不足」「上司からの低い期待」「正当に評価されないこと」という周囲の問題であり、「使命感・責任感不足」「能力不足」といった本人の問題ではないと捉えていた(報告書, 図3)。ゆえに、女性医師支援には、女性医師本人のみならず、上司・同僚としての男性医師も、男女共同参画について認識し理解しておく必要がある。しかし、いくら男女共同参画関連の企画を設けても、興味のない男性医師は義務付けない限り全く参加しないことが予想され、そういう上司のもとでは、女性医師支援は期待しがたい。
また、日本医師会は「女子医学生、研修医等をサポートするための会」の日本医学会分科会での開催を支援し、循環器学会、胸部外科学会、アレルギー学会、放射線腫瘍学会、脳神経外科学会、臨床薬理学会、リハビリテーション医学会、医療・病院管理学会などは本年度これを開催している。内科学会においてもこのような会を開催し、医学生や研修医の時期から男女共同参画やワーク・ライフ・バランスについて明確に意識・理解させ、ロールモデルを提示するべきと考える。
女性は一般に男性に比し、自己主張を控える傾向があったり、交渉スキルが未熟であったりすることが知られているが(McMurray JE, et al. J Gen Intern Med. 2000, 15:372-80.)、女性医師が好ましい状況を獲得していくためには、女性医師自身もエンパワーメントされ、周囲と交渉していくスキルやマネジメント能力を身につける必要がある。女性医師にはフォーマルにもインフォーマルにも、これらの教育機会が殆ど無いのが現状であり支援が必要と考える。
本ワーキンググループが実施したフォーカス・グループ・インタビュー(以下、「FGI」)において、女性医師がキャリア継続上問題としているのは、柔軟性に欠ける勤務体系、主治医制、男性優位と思われる評価、男性医師の理解の乏しさであった。これらの問題へは現場レベルでの対応も必須であるため、学会として施設内に男女共同参画委員会の設置を求めていくことを提案する。 - 3、内科専門医インセンティブの付与
- 質問紙調査では、「医師のキャリア促進要因」として「専門医資格」、「専門医という誇りと自信」は、他の要因と比べ評価が低く、総合内科専門医はその専門医としてのインセンティブを感じていないことが伺えたが、それでも女性医師は男性よりも高い傾向があった(報告書、図2)。また、「女性医師支援のために、日本内科学会が行うべき事柄」で男女ともに最も積極的に行うべきと回答されたのが「専門医のインセンティブを醸成すること」であった(報告書、図6)。専門医資格を持ちながら子育てのために非常勤勤務になったり、離職したりした女性医師のモチベーションを上げ、かつ、前述の「ロールモデル不足」を解消するためにも、教育病院・教育関連病院においては、女性総合内科専門医の配置を義務付ける。
- 4、女性医師のネットワーク作りの促進
- FGIにおいて、子育てのために非常勤勤務となっている女性内科専門医達の共通の意見として、一旦非常勤もしくは離職すると、情報や医師同士のネットワークからはずれて孤立してしまうこと、それが復職をさらに困難にしていること、が出された。実際にFGI参加の呼びかけも、離職している人には連絡困難であった。女性内科医のメーリングリストを構築し、離職後も先輩女性医師への相談や、女性医師支援ミーティングや復職支援セミナーの案内などに活かし、第一線から離れた女性内科医の孤立を防ぎたい。メールでの応答は時間的余裕がある女性医師を中心に自主的に行われるので、回答者の負担も少ない。さらに、回答者がメールで対応できることから、第一線から離脱している内科認定医・総合内科専門医も回答に参加しやすく、認定医・専門医として、また女子医学生や女性研修医に対するメンターとしてのモチベーションを上昇させ、職場復帰を推進し得ると期待する。内科専攻の可能性のある女性初期研修医や女子医学生(会員外)もメーリングリストに含めることができれば、メンター・ロールモデルとなる先輩女性医師が身近にいない場合でも、女性MLを通じて女性総合内科専門医がメンター・ロールモデルとなり、相談に応じたり、ワーク・ライフ・バランスを実践している現実を示すことができ、ワーク・ライフ・バランスへの不安を過大にとらえ内科に興味を持ちながら専攻を躊躇していた女性医師・医学生の内科離れを防ぐことができる。
また、総会・地方会に男女共同参画のブースを設け、そこで女性内科医のコミュニケーション・ネットワーク作りを図る。男性会員のブースへの参加も歓迎し、全会員の男女共同参画への意識を高める。できれば日本医師会女性医師支援センターに依頼して女性医師相談窓口もそのブースに設置してもらい、復職支援も図る。地方会にも託児を準備し、子育て中の女性内科医の参加を支援する。 - 5、復職支援・子育てへの配慮
- FGIにおいて、非常勤女性医師から、研修医や第一線の病院勤務医を対象としたセミナーには出席しにくく、その結果、復職への不安感が拭えないことも示された。復職支援を目的としたセミナー・講習会を学会が企画する(もしくは復職支援枠を設ける)とともに、教育病院・教育関連病院にも企画してもらいたい。
また、復職のモチベーションともなる認定医・専門医の維持のため、産休・育休期間は更新期間延長を配慮するとともに、総会に参加しにくい地方の女性医師のために、セルフトレーニング問題以外にも、出張することなく単位を取得できる方策(ウエブセミナーなど)を増やす。 - 6、男女共同参画委員会の設置
- 上記を検討・遂行するのみならず、今後も常に状況に合致した男女共同参画を推進すべく「実効性のある積極的改善措置(ポジティブ・アクション)(第3次男女共同参画基本計画より引用)」を提案・推進する恒常的な委員会を設置する必要がある。本委員会は、視点の重要性を鑑み、女性委員を半数以上とすること、研修医も含め卒後各年代から委員を選出することが望ましいと考える。
参考文献
日本内科学会専門医部会女性医師に関するワーキンググループ. 総合内科専門医に対する質問紙調査から, 日本内科学会誌100: 2020-31, 2011.
McMurray JE, et al. The work lives of women physicians results from the physician work life study. The SGIM Career Satisfaction Study Group. J Gen Intern Med. 15:372-80, 2000.
Mizoguchi M. Melanocyte development: with a message of encouragement to young women scientists. Pigment Cell Res l7:533-544, 2004.